島根半島東部の松江市島根町加賀は出雲国風土記によると、赤貝の化身と伝えられる支佐加比売命(きさかひめのみこと)が「暗い岩穴である」と言い、金の弓で射た際、光輝いた<光加加(かか)明けり>が、地名の語源とされる▼加賀の中でも、最も古くから人が住み始めた由緒ある場所が、民家や市所有の建物など22棟を全焼した大火から丸2年がたった地区である。新たな道路の整備に向けた調整や、生活再建への模索が今も続く▼更地に民家が建ったのは3棟と聞く。後継ぎや空き家の問題など、平時では先々解決しようと思っていたことが、判断を迫られる。よそから「復興を願う」などと軽々には言えない▼火災を思い出したくないと言う地元の人もいるという。それでも節目であえて触れるのは、歴史や景観に裏打ちされたこの地域の輝きに魅せられた人が少なくないからだ。当方が訪れた3月末、被災地のすぐ近くにある島根半島・宍道湖中海ジオパークビジターセンターのレストランは、平日にもかかわらず満席の状態だった。窓から見える港と沖の景色は絵画のようだ。3年続く新型コロナウイルスの影響から立ち直り、今春は盛況になりそうな予感がする▼被災直後のボランティア活動のほかに、よそ者にせめてできることは、次の時代を担う人たちがここに住んでも良いと思えるような活気を生み出すため、観光などで訪れて遠巻きに見守るくらいだ。(万)