「猿隠山に一緒に登りませんか」。3月半ばに職場にかかってきた電話で誘われ、安来市広瀬町東比田と鳥取県日南町阿毘縁にまたがる猿隠山(さるがくれやま、816メートル)に登ることにした。面識のない方からの思わぬ誘いに若干、面食らったが、山歩きは好きだし、いい機会だと思った。(安来支局長・桝井映志)

誘ってくれたのは「安来市観光ボランティアガイドの会」の大野善義(よしのり)さん(88)=安来市広瀬町広瀬。東京や大阪で働いた若い頃から登山が好きで、広瀬に帰郷後も写真館経営や旧広瀬町議の仕事の傍ら大山はもちろん、富士山など各地の山に登った。2000年に脳梗塞を患って左半身が不自由になってからも杖を突いて登っているそうだ。猿隠山の魅力は「安来で一番高い山だということ」だという。

3月27日午前、安来市役所広瀬庁舎で大野さんと合流して東比田に向かい、東比田の田中集落から阿毘縁に抜ける細い道を進んだ。右手の道端に石碑と案内看板が見え、尋ねると、登山口だという。この辺りで標高600メートルくらいらしい。登山道は1・5キロ。

阿毘縁むらづくり協議会作成という案内看板には県境部の山々の登山コースと説明が書いてある。猿隠山の説明は「イザナミノミコトが火の神カグツチを産んだ時のやけどで亡くなった地、避(サル)隠山と言われた。後に藤内民部信貞という武士が怪物退治をした折、猿が道案内をしたことから猿隠山と呼ぶようになったと言われる」とある。
大野さんの知る伝説では村を荒らす猿に似た化け物が武士に退治され、山に隠れたので猿隠山だという。
いきなりロープが・・・
登山口に駐車場はない。阿毘縁側に進み、道が少し広い場所に車を止めた。
午前9時40分、登山開始。いきなり、ロープをつかんで登る急傾斜の雑木林だ。尾根に出て、なだらかになったかと思うと、今度は急傾斜の下り。助けになるロープを張ってくれた方に感謝。ところどころに赤いテープで目印もある。大野さんも道中、赤いテープをくくりつけていた。
谷に降りてから杉林の斜面を登る。途中はロープのある急傾斜。尾根に出てからは、おおむね尾根沿いのなだらかな道が続いた。


歩きが楽になり、気持ちに余裕ができたせいか、野鳥のさえずりが耳に入る。白い花を咲かせた木も。大野さんに聞くと「コブシ。『北国の春』で、♪コブシ咲く―と歌うでしょう」。

ところどころ、地面に県境を示すとみられる杭があり、近くの木に「境界見出標」と記した札がかかっていた。「ミズナラ」「コナラ」などと木の名前や説明を記した札もあった。「山頂まで500メートル上り」と書いた手作りの木札に元気づけられ、ラストスパート。

石垣のようなもの、実は
山頂付近で右手のやぶの中に石垣のようなものが見えた。大野さんによると、人工物ではなく自然の石が割れたものだという。石垣のように見えて面白い。

午前11時10分、山頂に到着。島根県側は見晴らしがいい。比田・東比田両地区の集落を見渡せる。「あれが昔の東比田小学校(現在の東比田交流センター)」などと説明してくれた。


残念ながら鳥取県側は木が茂り、見通しが悪い。この日は黄砂で視界が悪かったこともあり、大山はぼんやりとしか見えなかった。

序盤の急傾斜の上り下りを除けば、楽に登れる山だと感じた。ゆっくりと登ったこともあって、息が切れるようなことは全くなかった。快晴なら、もっと眺めがよかっただろう。心残りは、石垣のような石のそばまで行って、よく観察しなかったこと。ちなみに山の名前にもある「猿」には遭遇できなかった。また登ることがあれば近寄ってみたい。