「ちゃぶ台返し世界大会」でちゃぶ台を返す男性=2019年6月15日、岩手県矢巾町
「ちゃぶ台返し世界大会」でちゃぶ台を返す男性=2019年6月15日、岩手県矢巾町

 「ちゃぶ台返しでイメージする人物は?」-。そう聞かれ、あの人の顔を思い出すのは50代以上か。野球漫画『巨人の星』の主人公星飛雄馬の父親の一徹である▼スパルタで飛雄馬をしごき、食事中でもちゃぶ台をひっくり返して怒りをあらわにする。そんなイメージが強いが、1968年からテレビ放送された全182話中、このシーンが登場したのは1回だけという。エンディングにちゃぶ台がひっくり返るシーンがあるため印象深いが、実際は飛雄馬を殴る際に引っかかって倒れただけらしい▼このちゃぶ台返しを生かしたユニークなイベントが岩手県矢巾(やはば)町にある。題して「ちゃぶ台返し世界大会!?」。叫びながら、40センチ四方の小さなちゃぶ台をひっくり返し、その上に載っているおもちゃのサンマが飛んだ距離と叫ぶ言葉の面白さで順位を競う。今年も19日に行われる▼3年ぶりに復活した昨年は14人が参加した。「コロナのばか野郎」と叫んでストレスを発散した男性もいたという。鬱憤(うっぷん)晴らしによさそうだ▼ちゃぶ台返しは、円満に運ぶと思われた事柄を権力者が独断でご破算にするという意味合いでも使われる。それを踏まえ冒頭の問いを考えるとあの人の顔を思い出した。わが国の宰相だ。福島第1原発事故後の流れだった原発依存低減を撤回。積極活用へとかじを切った。被災者の鬱憤は、ちゃぶ台をひっくり返すくらいでは収まるまい。(健)