映画「君たちはどう生きるか」が上演される映画館に並ぶ人たち=7月、東京都新宿区
映画「君たちはどう生きるか」が上演される映画館に並ぶ人たち=7月、東京都新宿区

 「分からない」ことは意外に人の関心を引き付けるようだ。宮崎駿監督(82)の10年ぶりの長編アニメ作品『君たちはどう生きるか』が全国公開されて1カ月。出だしは前作『風立ちぬ』を上回る興行収入を記録しているという▼鳥のような絵のポスターが昨年末に発表されて以降、予告編やCM、公式サイトなど、事前の宣伝がほとんどないままでの封切り。それがかえってファンの期待感をあおったようだ。情報であふれた時代に情報がないことが、逆に娯楽になる▼舞台は太平洋戦争の戦局が悪化した1944年の日本。空襲によるとみられる火災で母を失った少年眞人(まひと)は、軍事関連の工場を経営する父に従って東京から地方へ引っ越し、父の再婚相手の叔母と出会う。誰にも言えない鬱屈(うっくつ)を抱えながら眞人は行方不明になった叔母を捜し、アオサギに変身する男に導かれて不思議な世界へ迷い込む▼『君たちはどう生きるか』は、眞人が亡き母から贈られ涙を流しながら読む吉野源三郎の小説のタイトル。宮崎監督自身も少年時代に手にし感銘を受けたという。ウクライナ侵攻を続けるロシア、軍事的な動きを活発化させる中国…。混迷する現代をどう生きるかを問いかけられているようだ▼現代の若者たちにとって、戦時中の生活や苦しみは「分からない」ことばかりだろう。きょうは戦後78年となる「終戦の日」。平和への関心を高める日にしたい。(健)