8月は終盤に入ったが、熱帯夜はまだまだ続きそうだ。夏の夜の定番と言えば「怖い話」。小泉八雲の怪談が有名だが、身近にもたくさんある。松江市出身で「怪談師」として活動している神原リカさん(51)は様々な人から身の回りで起こった「怖い話」を収集し、100以上のレパートリーを持つ。とっておきのローカル怪談を紹介してもらった。
(Sデジ編集部・林李奈)

神原さんは幼いころから、松江市東出雲町に住んでいた酒とタバコが大好きな祖母が体験した不思議な話を聞いて育った。この経験が原点で、2014年から「怪談師」を名乗り、さまざまなイベントで話している。そのうち地元に因んだ2つの話を紹介する。(苦手な方はご注意を)
伊勢宮の飲食店や江津少年自然の家で・・・ 山陰にまつわる現代怪談、松江の寺で披露
少年自然の家の肝試しで出会った男
島根県内の多くの小学生は、5年の時に江津市松川町の県立少年自然の家で2泊3日の研修を体験する。名物は初日の夜の肝試し。参加したある男の子に不思議なことが起こった。
肝試しでは、男女でペアになって暗い遊歩道の中を歩く。道中には先生がいて「わっ!」と脅かすのがお決まりだ。男の子が女の子と2人でドキドキしながら歩いていると、少し先のほうの暗がりの中に前かがみで背を向けた男の人が立っていた。
男の子は「先生が脅かそうとしているな」と思って近づいてみるが、男は動かない。ずっと黙ったまま静かに立っていた。男の子は「気持ちが悪いな」と思ってペアの女の子とその背を向けた男の横を通り抜けた。
肝試しが終わり、一緒にいた女の子に男について聞くと「そんな男はいなかった」と女の子。別のペアに聞いても口をそろえていなかったと言う。
男の子が大人になって、会社で飲み会があった。島根県出身の同僚と「小学5年生で少年自然の家に行ったよね」と話に花を咲かせている時に、自分の体験した不思議な話をした。「絶対に見たんだ」と当時の記憶を思い出しながら話した。その時近くにいた別の同僚が恐ろしい顔をして「その話、俺の兄貴から全く同じことを聞いた」と。
その同僚に話を聞くと、その男が見えたのは兄貴だけ。ペアの女性や同級生もその男を見ていないという。あまりにも偶然の一致だった。
今でも江津の少年自然の家に、背を向けた男はずっと立っているのかもしれない。
記者の感想
雲南市出身の記者も、小学生の時に同じプログラムに参加し、肝試しを体験した。その際、霊感の強い同級生が肝試し前に倒れて怖さで震えた覚えがある。この怪談では、前かがみで後ろを向いた男が特定の人にしかその姿が見えないということにリアリティーを感じ、背筋が寒くなる。
百貨店で買った白無垢
今から約40年前、山陰に住むある美容師の女性は、友人に結婚式での白無垢の着付けを頼まれた。当時専門学校を卒業したばかりの女性は、白無垢の着付けをしたことがなかった。
当時の美容師は住み込みが当たり前で、自分の師匠に相談すると「白無垢を買ってあげるからそれで練習しなさい」と言われた。
そんな時、地元の百貨店で蚤の市があった。美容師は百貨店に朝から並んで、よい白無垢がないか探していると新品のようなセットが売れていた。見た目は新しいが、なんと中古の3割程度の値段で破格の安さだった。
「こんなに安くてきれいな白無垢があるなんて」と掘り出し物だと思った女性は買って帰り、夜遅くまで着付けの練習をした。
ある夜、着付けの練習後、疲れて自分の部屋に戻り、倒れこむように自分のベッドに倒れた。
夜中、目が覚めると、女性の足元の近くにあったふすまがすっと開いた。「こんな夜中に先生かな」と思い、起き上がって確認しようとするが、体が動かない。目だけは動かせた。すると、ふすまの向こうの暗がりに白い物体がもやもやとしていた。「あれはなんだ」と思った瞬間、花嫁がする髷(まげ)を結った女性の生首がぬうっとベッドの下から出てきた。
生首に驚いた美容師は「うわあー、ぎゃあー」と大きな声で叫んだ。その声は隣の師匠の部屋まで聞こえ、師匠が美容師の部屋にやってくると、不思議なことに生首は消えていた。師匠は「きっと元の白無垢の持ち主が、今白無垢を触っているのは誰なのかと確認しにきたんだよ」と言った。
白無垢は、一般女性のサイズより二回り小さかった。その持ち主は一度も袖を通すことなく亡くなったのかもしれない。
記者の感想
嫁入り前の女性の生首が出てくる、すさまじい話で衝撃が走った。いわくつきで安く借りることができるアパートの部屋などを「事故物件」などと呼ぶことは知っているが、中古ショップなどで市場価格より異常に安い商品を見かけることがある。この白無垢のように安い理由には何か恐ろしい理由があるのかと勘ぐりたくなりそうだ。
怪談はエンターテインメント
神原さんは「現代の怪談は...