「むかしからずうっとここにたっている どこかにいきたいとおもったことはない」これは、『こやたちのひとりごと』(谷川(たにかわ)俊太郎(しゅんたろう)・文、中里(なかざと)和人(かつひと)・写真、アリス館)に登場する小屋のひとりごとです。
この本のページを開くと、田畑や空き地に立つ小屋の写真が並(なら)んでいます。さびてボロボロの小屋、草がたくさん生えている小屋、つぎはぎだらけの小屋…。それぞれの小屋たちが語るひとりごと。写真を見ていると、小屋たちがこちらに語りかけてくれるようです。
「そんなこと言う?」と笑えるような言葉や、小屋たちが見守ってくれているような言葉も。どんなことを言うかなと自分なりに考えながら読むのも楽しいですよ。
『黒部(くろべ)の谷の小さな山小屋』(星野秀樹(ほしのひでき)・写真・文、アリス館)の表紙に写っている山小屋からは、どんな声が聞こえてくるのでしょうか。
この山小屋は、黒部の谷底に立つ阿曽原(あぞはら)温(おん)泉(せん)小屋。登山客が泊(と)まる山小屋です。7月の半ばから10月の終わりまで、お客さんを迎(むか)え入れ、11月になると、解体(かいたい)します。
なぜ解体するのか? それは、雪崩(なだれ)で崩(くず)れてしまうのを防(ふせ)ぐため。そして、次の年の6月にまた立て直します。
小屋を建て直しているのは、小屋の主人である泉(いずみ)さんとその仲間たち。小屋を立て直す他にも、危(き)険(けん)な道を直したり、遭難(そうなん)した人の救(きゅう)助(じょ)もしています。
ページをめくるたびに、ため息が出そうなくらいの絶景(ぜっけい)、自然を感じることができます。その景色(けしき)にひかれて、毎年たくさんの登山者がやってくるのだそうです。
大変なこともあるけれど、黒部に来た人が「こりゃすごいとこだ」と感動する顔を見たいから頑張(がんば)ることができると泉さん。きっと、泉さんのいる山小屋も魅(み)力(りょく)のひとつなのでしょう。
一方、こちらの山小屋『じいちゃんの山小屋』(佐和(さわ)みずえ作、カシワイ絵、小峰(こみね)書店)は、電気もなければトイレもお風呂(ふろ)もありません。もちろんスマートフォンも圏外(けんがい)です。
その山小屋に、おじいちゃんと二人で住むことになった小学生の男の子航太(こうた)。そんな場所に住むなんてありえないと思う人も多いのでは。
航太も最初はそう思っていました。しかも、おじいちゃんは頑固(がんこ)で厳(きび)しく、転校先の同級生ともなじめない。そんな航太でしたが、おじいちゃんにも慣(な)れ、自然の恵(めぐ)みとともに暮(く)らすうちに、航太の気持ちも少しずつ変化していきます。
おいしそうな食べもの、ワクワクするような洞窟(どうくつ)。この本を読んでいると、山小屋での暮らしがうらやましくなります。「じいちゃんの山小屋」からひとりごとが聞こえてきました。「たまにはスマホを置いて、山小屋においでー」
(尾崎智子(おざきさとこ)・島根県立大学松江(まつえ)キャンパスおはなしレストランライブラリー司書)