「ハイジ(上、下)」(写真上)ほか
「ハイジ(上、下)」(写真上)ほか
「ハイジ(上、下)」(写真上)ほか

 近ごろ、液晶(えきしょう)画面をのぞくと悲(かな)しいニュースや嫌(いや)な出来事(できごと)が目にとまり、気持ちが沈(しず)んでしまうことがあります。

 そこで今日は、そんな重苦しい心も洗(あら)われる3冊(さつ)の物語を紹介(しょうかい)します。

 スイスアルプスが舞台(ぶたい)の『ハイジ 上・下』(J・シュピーリ・作、矢川(やがわ)澄子(すみこ)・訳(やく)、福音館書店、高学年から)は私(わたし)の愛する1冊です。

 幼(おさな)いハイジは両親を亡(な)くし、アルムじいの家へ連れて行かれます。偏(へん)くつで人嫌(ぎら)いと評判(ひょうばん)のアルムじいですが、ハイジのために屋根裏(うら)に干(ほ)し草のベッドを整え、厚切(あつぎ)りパンにはかまどであぶったチーズをのせ、搾(しぼ)りたてのヤギの乳(ちち)をそえて出し、ハイジが食卓(しょくたく)で使う小さなイスを手作りしてくれます。

 そしてハイジはヤギ飼(か)いのペーターや、そのおばあさんとも親しくなり、アルムの大自然の中でのびやかに暮(く)らします。

 ところがある日、ハイジは身勝手なおばさんにだまされ、裕福(ゆうふく)なフランクフルトのゼーゼマン家で、足の不自由な娘(むすめ)クララの話し相手として奉公(ほうこう)することになります。

 アルムの山へ帰りたい、でもそれではクララを悲しませる。ハイジの心は二つに引きさかれます。ハイジは、クララはどうなるでしょうか。

 簡易(かんい)なダイジェスト版(ばん)(中学年向き)ではなく、ぜひ完訳で味わってください。

 大切な人のしあわせを願うハイジですが、自分を作ってくれたビーダーじいさんの幸せを願うのは木馬(もくば)も同じです。『木馬のぼうけん旅行』(アーシュラ・ウィリアムズ・作、石井(いしい)桃子(ももこ)・訳、福音館書店、4年生から)

 木馬は病気で倒(たお)れてしまったビーダーじいさんのために、お金をかせぐ旅に出ます。

 ところが木馬をただでこき使おうとする、悪い地主に捕(つか)まったり、おもちゃを乱暴(らんぼう)に扱(あつか)う兄弟に壊(こわ)されたり、何度も困難(こんなん)に出あいます。けなげな木馬を応援(おうえん)せずにいられません。

 最後に紹介するのは、辛(つら)い記憶(きおく)を抱(かか)え祖父(そふ)と二人で、難民(なんみん)としてアフガニスタンからアメリカに逃(のが)れてきた少年サミの物語です。『11番目の取引(とりひき)』(アリッサ・ホリングワース・作、もりうちすみこ・訳、すずき出版(しゅっぱん)、中学生から)

祖父は民族楽器ルバーブの名奏者(めいそうしゃ)ですが、サミは祖父の魂(たましい)ともいうべきルバーブをひったくりに盗(ぬす)まれてしまいます。

 卑劣(ひれつ)な古物商(こぶつしょう)が期限付(きげんつ)きで700ドルと高値(たかね)を付けたルバーブを、祖父のために取り戻(もど)したいサミ。お金のないサミは、手はじめに祖父が買ってくれた大切なキーホルダーを物々交換(こうかん)し、物々交換を繰(く)り返すことで700ドルを手に入れようと考えます。

 11番目の取引で、サミが手に入れるものは一体何でしょうか。

 紹介するために3冊を読み返し「人生は生きるに値(あたい)すると教えてくれるのが児童文学」といつか聞いた言葉が心に浮(う)かびました。

 (出雲(いずも)市立大津(おおつ)小学校司書 澤田(さわだ)千鶴子(ちづこ))