東京・国立劇場で1カ月ほど前に見た、三刀屋高校演劇部の公演に心を奪われた▼演目は利用者の減少が続くJR木次線を題材にした「ローカル線に乗って」。木次駅のホームから謎の汽車に乗り込んだ主人公の女子高生が、乗り合わせたさまざまな時代を生きた人々と交流する作品だ▼出征など時代に翻(ほん)弄(ろう)されながらも鉄路がつないだ歴史が描かれる中、物語は終盤、主人公と車掌が現代の路線が必要かどうかを激しく言い合う。「便利じゃないものはなくなっていく。仕方ないじゃないですか」と諦める主人公に、車掌が訴えかける。「見捨てて、切り捨てて、気付いたら何もなくなる。そんな町は豊かなんですかね。便利じゃなくても、時間がかかっても、乗らないと見えない景色があるのに」▼1年間作品に向き合ってきた演劇部員たちの意識にも変化があったようだ。中村美涼部長は閉幕後、「当たり前にあるものだと思っていたが、すごく大切なものになった」と路線への思いを話した。国立劇場での公演のために地元から木次線に乗って出発し、帰路にも利用した▼地方鉄道の存廃協議について、JRなどの事業者や自治体の要請を受けた国が「再構築協議会」を設置する新制度の運用が10月に始まる。木次線が対象になるかどうかは不明だが、鉄路の将来を決める際には高校生たちが関わり、当事者として声を上げられる仕組みを期待したい。(吏)