ぴたりと決まった音が安定して伸び、正確で整った和声が隙のない絶対的な雰囲気を醸し出す。半面、長い歴史のある楽器にしては人や生物の息遣いを感じにくい機械的な音色。それゆえ人間離れして神々しい。だから苦手な人も少なくないだろう。パイプオルガンの話だ。
中四国地方の公共ホールで唯一パイプオルガンがある松江市のプラバホールで、1986年の開館以来初のオーバーホールが進んでいる。分解、修理の記事を読み、あまりオルガン演奏を聴いていなかったことに気付いた。
改めてパイプオルガンを効果的に使ったクラシックの名曲を聴いてみた。フランスのサン・サーンス作曲『交響曲第3番・オルガン付き』。管弦楽の響きが続く中で最後の最後に突如、あの音色が現れる。存在感と異質性で場の空気が一変しフィナーレへ至る。心に残る曲だが、パイプオルガンが必要な編成とあって実際の演奏機会はあまり多くない。
プラバホールが完成した80年代は、全国的に市民ホールや美術館の建設が進み、好調な経済に加え「文化大国」と思われたい気概もあった。パイプオルガンもその産物で、是非はともかく貴重な個性と遺産だ。
オーバーホールに伴ってパイプを追加し、音色の組み合わせも増える。どんな曲を聴けるのか楽しみで、プラバでも演奏実績のある『オルガン付き』は、音楽ファンとしてはぜひ生で。難曲そうだが…。(板)