14日の営業を最後に、65年の歴史に幕を閉じる一畑百貨店=松江市朝日町(12日撮影)
14日の営業を最後に、65年の歴史に幕を閉じる一畑百貨店=松江市朝日町(12日撮影)

 昨年末、携帯電話に一通のメールが届いた。送り主はかつて一畑百貨店の社長を務めた中村勝輔さん(79)=松江市在住。その日の本紙「こだま」欄に掲載された投稿の感想がつづられていた。

 投稿者は島根県飯南町出身の詩人里みちこさん(76)=大阪市在住。21年前に一畑百貨店から「詩語り講演」を依頼され、感動したという思い出が記されていた。<そのとき話したのは、私が困難に出合い途方に暮れていたとき、言葉の力によって新しい心の扉が開かれた経験でした。本来、お金と見える物を交換する百貨店で、見えない「言葉」がプレゼントされたのです>

 大手百貨店の三越から転籍し、当時松江店長として陣頭指揮に当たったのが中村さん。里さんの投稿に「私たち(一畑百貨店)が一番大切にしてきたことです。物だけではなく心、そして『こと』。百貨店の大切な役割です」。メールの文面からは、喜びと同時に一抹の寂しさも感じた。

 一畑百貨店がきょう、65年余りの歴史に幕を閉じる。思い出すのは物だけではないはずだ。あれこれ品定めした記憶、プレゼントする相手に対する気持ち…。全てが百貨店の魅力だった。

 最後に里さんの投稿の結びを引用する。<一畑百貨店と島根のひとと、そして私。三者三様に交わした温かい「ありがとう、だんだん」の響きは、それぞれの耳の奥に永遠に残ることでしょう>。ありがとう、一畑百貨店。(健)