法という法の中で最も知られるものの一つではないか。歴史の教科書をなぞっただけで覚えている、江戸時代の「生類憐(あわれ)みの令」だ。作家を問わず広く読みあさっている時代小説でも、しばしば登場。ひそかに確信を強めている▼調べると、一つの法ではなく、動物愛護の諸法令の総称とか。違反すれば死罪や遠島にもなる理不尽さが、小説では思いがけない展開につながるのだが、震え上がる町民が気の毒で「これぞ悪法」と腹も立つ▼「悪法もまた法なり」-。古代ギリシャの哲学者ソクラテスにまつわるこの言葉も、教科書で知り、覚えている。伝統的な神々を崇拝せず若者を惑わしたなどとして、有罪となって刑死。「合法的」な手続きで進められた民衆裁判の結果を受け入れ、「不正」(脱獄)を拒否した▼時を超えて現代。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件が連日紙面をにぎわせている。国会議員が自らつくった法の「抜け道」を利用した。派閥解消や政治刷新を声高に訴えても、「どうせまた」という空気は重く漂い続けるだろう▼ソクラテスの時代より古く、2500年以上に及ぶ歴史があるという民主主義。あらゆる選挙で止まらない投票率低下を含め、「危機」の責任を負っているのは、為政者ばかりではない。紙面で隣り合う能登半島地震のニュースとの落差に覆いたくなる目を見開いて、「自分事」として考える機会にしたい。(吉)