屋根に石州瓦が使われた木造長屋型の応急仮設住宅=石川県輪島市(提供)
屋根に石州瓦が使われた木造長屋型の応急仮設住宅=石川県輪島市(提供)

 日本海に面した石川県輪島市の黒島地区は、北前船の船主や船員の集落として栄え、歴史的な街並みで知られる。地区を代表する廻船問屋の旧角海家住宅には、浜田の港から北前船で運ばれた石見焼の水がめが残されていた。石見焼の流通を研究し、現地調査で確認した大田高校の阿部志朗校長(58)は案じている▼「頑丈な石見焼の陶器もさすがに駄目だったかもしれない…」。黒島地区は能登半島地震で甚大な被害を受け、旧角海家住宅は倒壊した。人命は言うまでもないが、歴史を今に伝える建造物や貴重な資料が震災で失われるやるせなさを思う▼能登地方で石見焼が広く分布したのに対して、同じ粘土と釉薬(ゆうやく)を使って作る石州瓦の流入は限定的だったとされる。能登は瓦の産地で、古い街並みを形成する家屋の屋根は釉薬の黒光りが特徴の能登瓦が多い。だからだろう。テレビのニュースで見た輪島市内に整備された木造仮設住宅の屋根も黒い瓦だった▼まさかそれが石州瓦だったとは。本紙の記事にあった。瓦屋根の木造仮設はプレハブ型より耐久性があり、住み心地に優れるという。なじみ深い地元の瓦が被災地で役立っていると思うと、誇らしい▼元日の地震発生から、きょうで5カ月。被災地ではいまだ大勢が避難所で生活し、損壊した建物や暮らしの再建はまだこれからだ。屋根の上の瓦のように、求められるのは強固で末永い支援だろう。(史)