紫色に染まったアルプススタンド。応援曲「サウスポー」が鳴り響く中、駆け付けた約3千人がメガホンを叩(たた)き、跳びはねて叫ぶ。テレビの実況がかき消されるほどの応援に涙が止まらなかった。夏の甲子園で大社が歴史の扉を開いた。準々決勝で快進撃は止まったが、8強入りは93年ぶりの快挙だ▼勝ち方がドラマチックだった。優勝候補を次々と撃破。2試合連続タイブレークでの勝利は夏の大会で初。県民が熱狂した。盆休みの同窓会で自然と話題になった。「感動した」「断然応援する」。全国の知人からメッセージが届いた▼九回裏に追い付き、延長十一回の末にサヨナラ勝ちした3回戦の早稲田実業(西東京)戦は歴史に残る名勝負になった。試合後、引き揚げる大社ナインを早実の和泉実監督が笑みを浮かべて激励。「お互いの生徒が美しかった。今日の敗戦は監督を辞めても覚えていると思う」とインタビューで涙した。「この子たちの可能性、生徒の夢は無限大」という大社の石飛文太監督の談話は流行語になりそうだ▼大社ナインの中には3年前の島根大会決勝で無安打無得点で敗れるのを見て、進学を決めた選手もいる。今夏の快挙に「野球をやりたい」と思う子どもが増えそうだ。いつか甲子園優勝の夢をかなえてくれるだろう▼無限大の夢と希望を与えてくれたナインに「ありがとう」の言葉を贈りたい。県民は今年の夏を忘れない。(添)