例年、見事な演奏が繰り広げられる全日本吹奏楽コンクール島根県大会=出雲市内、2001年8月(資料)
例年、見事な演奏が繰り広げられる全日本吹奏楽コンクール島根県大会=出雲市内、2001年8月(資料)

 イタリア音楽の美しい旋律に魅了され、ドビュッシーやラベルのフランス音楽では自然美が目に浮かんだ。日本人の曲は、もの悲しさやおどろおどろしさが漂い、これもハマった▼昭和が平成になる前後、夏に全日本吹奏楽コンクール島根県大会が終わると、自校とともに各校の演奏音源がカセットテープで販売され、夢中で聴いた。強豪校から技術を学びつつ未知の曲との出合いが楽しかった▼コンクールの演奏時間は2曲で12分以内。1曲1時間半のブルックナーの交響曲など、大作を通しで聴く今にして思えば、音楽の”つまみ食い”で、各作曲家の趣向の断片に触れたに過ぎない。けれど異文化理解や日本文化を見つめる入り口になった。自校の結果はさておき、至福の時間だった▼吹奏楽コンクールは今年も10月に全国大会がある。本来は聴いて聴かせて楽しむ音楽に競技性が持ち込まれ、美点ばかりではない。審査は楽団全体の音色、音程、そろい具合が重要で、「勝ちたい」なら長時間の機械的な反復練習が続きがち。伸びやかな感情表現という芸術の要諦と相いれぬ一面があり、賛否が分かれる▼吹奏楽経験者が多い割に、高校まででやめた人が多いのが残念だ。作曲家、奏者の意図を感じ楽しくなるのは、人生経験とも関係する。91歳の今も活躍する渡辺貞夫さんのサックスを聴くにつけ、深淵(しんえん)なるこの世界では、誰もがまだまだ青いのだ。(板)