リモコンのボタンを押(お)すと、誰(だれ)も乗っていない田植え機のエンジンがうなりを上げ、そのまま水田の中を進み始めました。「チャッ、チャッ、チャッ」。緑の苗(なえ)が8列、左右30センチ間隔(かんかく)で次々と植え付けられていきます。田植え機は端(はし)のあぜに近づくと自動で一時停止(ていし)し、ボタン操作(そうさ)で器用にUターン。何度も往復(おうふく)し、作業を短時間できれいにやりとげました。
現在地正確に
この「ロボット田植え機」は、広い水田での作業をスムーズに行えるよう考え出されました。苗を真っすぐ植えたら、その列をふまないようにしなくてはいけません。同じ場所を通らず水田全体に苗を植えるためのいろいろな工夫(くふう)がされています。
水田の底にはでこぼこがあり、運転には細かい操作が必要(ひつよう)です。ロボット機は前方に取り付けたアンテナで人工衛星(えいせい)からの電波を感知し、スマートフォンとも連携(れんけい)しながら現在地(げんざいち)を正確(せいかく)に確認(かくにん)。コンピューターがハンドルやアクセルなどの動きを制御(せいぎょ)して進みます。
自動車に使われているカーナビより詳(くわ)しく位置が分かり、走行ルートの誤差(ごさ)はわずか2~3センチほどです。最初だけ人が運転し、水田のふちにそってカタカナの「コ」の字に走って形を読み取らせると、すぐに一番効率的(こうりつてき)な作業ルートを計算。その後は自動走行します。
田植えをしながら肥料(ひりょう)を一緒(いっしょ)にまくこともでき、積みこんだ苗が足りなくなってきたらクラクションを鳴らして知らせてくれます。
全て1人で
通常(つうじょう)の田植え機では運転者と、苗床(なえどこ)を補充(ほじゅう)する人で作業を分担(ぶんたん)しますが、ロボット機なら運転者は不要。水田わきで苗を準備(じゅんび)しながらロボット機の様子を確認し、リモコンで動きを調整するといったことも全て1人ででき、人手不足の解消(かいしょう)に役立つと期待されます。
ロボット機を手がける井関農機(いせきのうき)の小野里泰仁(おのざとよしひと)さん(42)は「今は安全のために見張(みは)りが必要なルールですが、将来(しょうらい)全自動で田植えができる決まりになった時のため、さらなる研究開発を目指しています」と話しました。
トラクターは有人機と連携
日本の農家の数は、20年前に比(くら)べ半分以下に減(へ)ってしまっています。使われなくなった田んぼや畑を集めて大きくまとめ、できるだけ手間をかけずに多くの作物を育てようとする効率化(こうりつか)の取り組みが進められています。
そこで活躍(かつやく)するのが、広い農地を短時間で耕(たがや)す大きな機械。ロボット田植え機と同じく自動運転ができるトラクターは、有人と無人の2台が連携(れんけい)し、1台が耕した後にもう1台が種をまいたり、2台で同時に耕したりすることができます。
子どもの背(せ)たけほどの大きなタイヤを備(そな)え、高い視点(してん)から見渡(みわた)せる操縦席(そうじゅうせき)はエアコンもきいてとても快適(かいてき)。自動運転モードの場合、離(はな)れた場所にいても周りに取り付けたカメラからの映像(えいぞう)がタブレット端末(たんまつ)に送られ作業の様子を確認(かくにん)できます。