農村景観を次世代に伝える『ランドスケープ農業』を提唱し、取り組みを紹介する大津愛梨さん=7日、浜田市内
農村景観を次世代に伝える『ランドスケープ農業』を提唱し、取り組みを紹介する大津愛梨さん=7日、浜田市内

 東北の小さな村を舞台に、自給自足に近い生活を送りながら自分と向き合う女性いち子の暮らしを描いた映画『リトル・フォレスト』。公開は約10年前だが、四季折々の景色と、田畑や野山で採れた季節のもので食事を作り、生きる力を蓄えるいち子の姿を心に留めるため時折見返す▼それに近い生活を送る大津愛(え)梨(り)さん(50)の話を聴いた。4児を育てながら、夫の故郷である熊本県南阿蘇村で無農薬・減農薬の稲作農家を営む。阿蘇山を望み水田が広がる美しい風景は農家がいなければ紡げない。そんな景色を次代に伝える「ランドスケープ農業」を提唱し、情報発信や体験者の受け入れに勤(いそ)しむ▼背景にあるのは危機感。日本の総人口に占める農業従事者の割合は1・8%。そのうち49歳以下は1割強だ。今見ている景色は風前のともしびであり、何より国民の命の源である「食」を守れなくなると指摘する▼思い出したのが、出雲市内で民泊を提供していた知人の話。海外からの客が近所を散歩し涙をためて帰ってきた。小さな畑で、おばあさんが丹精を込めて作物の世話をする姿がとても尊く、その光景は当たり前ではないと教えられたという▼畑が住宅や駐車場に変わる光景をよく見かける。より身近な、小さな農地の継承の在り方も本気で考えたい。「やれることはある。できるかできないかではなく、やるかやらないかだ」と大津さんは言った。(衣)