大国主命(オオクニヌシノミコト)の求婚に、逃げて姿を隠したアヤトヒメ、嫉妬しながら一途(いちず)に夫を思った大国主命の正妻スセリビメ、その正妻を恐れ、大国主命に会わず子神を出産したヤカミヒメ…。出雲国風土記や古事記に登場する出雲にまつわる姫神は、個性的で共感しやすく神話をより身近に感じる。
とりわけ同情するのが古事記にだけ名が見えるヒナガヒメ。大人になっても話すことができない11代垂仁天皇の皇子ホムチワケの伝説に登場する。出雲を訪れて言葉を発することができた皇子が、一夜を共にした相手がヒメだ。
ところが、皇子がこっそりのぞき見たヒメの正体が蛇だったため、皇子は逃走。追いかけるヒメにさらに驚いた皇子は、船で大和(中央)へ逃げ帰ったという話。ヒメの心中を思うと泣ける。
ところで古事記にはヒナガヒメがどこのヒメかとの記述はない。当該の逸話が何を暗示しているのかも併せ、想像力を膨らませるしかないが、それはそれで面白い。少女漫画家の山岸凉子さんは、皇子をもてなした出雲国造の祖キヒサツミの末娘という設定で『肥長比売(ヒナガヒメ)』という作品を描いている。
おそらく出雲のヒメだったのだと思う。どこでどんな一生を送ったのだろうか。祭る神社は、出雲市内の富能加神社と市森神社だけのようだ。今年の十二支は巳(み)。復活や再生を意味する。蛇神のヒメにあやかり、新年の決意を報告しに、久しぶりに参拝しよう。(衣)