横綱に昇進し、立浪部屋前に集まったファンの声援に応える豊昇龍=29日午前、東京都台東区
横綱に昇進し、立浪部屋前に集まったファンの声援に応える豊昇龍=29日午前、東京都台東区

 広告デザイナーやアートディレクターとして国内外で幅広く活躍した石岡瑛子さん(1938~2012年)はこんな言葉を残している。<私はデザインのキーカラーにRED(赤)を使うことが多い。そのくせ自分の実生活の空間に、赤はどこにもない。地味な色に囲まれていれば心理的に落ち着く人間なのに、表現者となると別問題になる>。益田市の島根県立石見美術館で開催されている企画展の展示に見つけた。

 もう一人の自分という点で言えば、土俵の勝負師も同じかもしれない。横綱に昇進した豊昇龍の顔がふと浮かんだ。取組前に見せる形相はまるで獲物を捕らえる獣のよう。それが土俵を下りると、違う一面をのぞかせる。

 初場所千秋楽でもつれ込んだ優勝決定ともえ戦を制し、目を潤ませて引き揚げた花道で付け人とがっちり抱き合った。優勝インタビューでも鋭い眼光は消え、目元を緩ませたあどけない表情が印象的だった。

 叔父である元横綱朝青龍と何かにつけて比べられるが、師匠の立浪親方をはじめ周囲の評は「性格は全然違う。素直で真面目」なのだそう。本人は「誰かのことをまねするのではなく、これが僕なんだというものを見せたい。新しい自分を出したい」と抱負を語った。

 口上は大関昇進時と同じ「気魄(きはく)一(いっ)閃(せん)」。ぶれずに真っすぐ、力強く-。横綱豊昇龍はどんなカラーを見せてくれるだろう。春場所がはや待ち遠しい。(史)