大きさばかりで古さに着目することはなかった。日本一の面積を誇る滋賀県の琵琶湖は、ロシアのバイカル湖、アフリカのタンガニーカ湖に次ぐ世界3位の「古代湖」という。
誕生したのは猿人が生きていた400万年前。三重県の伊賀盆地にできた小さな湖が地殻変動で移動し、40万年前に現在の形に落ち着いた。ちなみに日本で7番目に大きい宍道湖は約6千年前にできたとされ、琵琶湖から見れば“ほやほや”というところか。
人間国宝の染織家・志村ふくみさん(100)は滋賀県出身で、琵琶湖の風景は創造の源泉だった。「近江の地で初めて織りの仕事に向かい、藍を建て、その色は湖を藍の壺(つぼ)と思うほどに深く結びついた」と著書に記す。
原風景であり心象風景だったのだろう。「私にとって単なる風景ではない。肉親や愛する人などの終焉(しゅうえん)の地であり、鎮魂の思いのする湖」との言葉は、幾多の季節や人々の思いを包んできたであろう琵琶湖の長すぎる時を知ると、ことさらに深く染みる。
琵琶湖はその古さゆえにビワマス、ビワヒガイなど16種の固有の生き物が確認されている。とはいえ昨今の温暖化も影響して数を減らし、絶滅の危機にあるという。そういえば、「春を告げる魚」である宍道湖のシラウオも今季は、ほとんど捕れていないと聞いた。猛暑で水温が上がっている影響があるのだろうか。宿すものが年々減りゆく湖の悲しみを思う。(衣)