映画館・イオンシネマ松江が先月、松江市東朝日町に開業した。上映中の『鬼滅の刃』『国宝』は全国的にヒット。両作とも漫画、小説を映画化した。登場人物の声や物腰、雰囲気などに“想像の余地”を残したい人は「まずは本を読め」となる。
だが、名作『赤毛のアン』は最初、映像で済ませたくなった。何しろ「想像の余地」という語句を連発する主人公の少女アン・シャーリーは大変なおしゃべり。本2ページ分が丸々アンの発言で埋まることもある。中年にして初めて読むには目まいがした。
あの才能は日本人ならフリーアナウンサーの古舘伊知郎さん(70)だ。「黒髪のロベスピエール」「人間山脈」と数々の名句をちりばめた矢継ぎ早のプロレス実況が記憶に残る。「アンは古舘さんか」と思い直し読み進めると…。
聖書や古典の句、英米の詩を引用し文体が凝っている。アンの周囲の大人たちも成長し年齢的に共感する。さらにアンのおしゃべりがないと物語が始まらなかった。
アンのその後は長編で描かれる。成熟し知的な三男三女の母に。アンの末娘の視点で語る最終8巻では、息子3人とも第1次世界大戦でカナダから欧州に出征する。志願兵募集に応じないと後ろめたくなる同調圧力が恐ろしい。伝わる戦況に一喜一憂し、銃後で無事を願う身内の姿が生々しく痛々しい。息子1人が戦死。雄弁なアンにして悲しみを表す言葉が文中にない。(板)