日本が主導した環太平洋連携協定(TPP)に対し英国が加入を申請した。実現すれば12カ国目の加盟国となり、アジア太平洋を基盤とした貿易協定は規模を拡大し、欧州にも足場を持つことになる。韓国など参加に関心を示している国々に対し、前向きな対応を促す効果も期待していいだろう。英国の申請を歓迎したい。

 日本は今年、TPPの意思決定機関であるTPP委員会の議長国で、英国の加盟交渉でリーダーシップを発揮できる立場にある。自由貿易圏拡大の好機ととらえ、新加盟を成功裏に導き、さらなる拡大、進化につなげたい。

 TPPは元々、「対中国包囲網」の狙いも含めて米オバマ政権が主導していたが、「米国第一主義」を掲げ2国間交渉を優先したトランプ政権が離脱。その後、日本が中心となって交渉をまとめ2018年に発効した。シンガポール、カナダ、ニュージーランドなど計11カ国が加盟し、世界の国内総生産(GDP)に占める比率は13%に上る。

 バイデン政権は当面、新型コロナウイルス感染拡大による景気低迷への対応など内政へのてこ入れに忙殺されるが、落ち着いてくれば、通商政策の再構築に着手するだろう。その際、成長が有望視されるアジア太平洋の経済圏を高い自由化水準でカバーするTPPへの復帰は、優先度の高い政策課題になるはずだ。

 米国が加われば、TPPは規模拡大のみならず、抜群の安定性も得ることになる。関係閣僚間などでの情報交換を積極的に進め、TPP復帰を求める働きかけを強化していきたい。

 貿易で米国と対立関係にある中国もTPPへの参加意欲を表明している。しかし国有企業や知的財産の扱いなど基本的な経済、産業政策で、中国はTPPの高い自由化水準からは程遠く、どこまで現実的な政策として検討するつもりなのか判然としない。国際政治上の戦略的な駆け引きの可能性もある。

 いずれにしても、米国の国際協調路線への復帰や欧州連合(EU)から離脱した英国の通商政策の強化を背景に、各国間の通商交渉は活性化していくだろう。コロナ禍の収束傾向がはっきりしてくれば、さらに加速するはずだ。

 日本は米国抜きのTPPをまとめ、EU、英国との間でも、それぞれに経済連携協定(EPA)を締結し、この分野では一日の長がある。自由貿易圏拡大に向けた国際的な責任を自覚するべきだろう。米中間で繰り広げられた報復関税による貿易摩擦が世界経済に及ぼしたダメージはまだ、記憶に新しいところだ。

 国際通商のルールは本来、世界貿易機関(WTO)が制定し統一的に運用するはずだが、現在は米中貿易摩擦の余波などから機能不全の状態が続く。各国は個別に2国間協定や多国間協定を締結し、その中で定めたそれぞれのルールで貿易を行っている。

 こうした中、農産物、工業製品などの関税削減・撤廃のほか、電子商取引、知財保護などでも先端的なルールを盛り込んだTPPは事実上、多国間貿易協定の世界標準として機能する可能性もある。将来、正常化したWTOが実効性のある新たな通商ルールの策定に乗り出す際、そのひな型となるように、さらに磨きをかけていきたい。