倍返しかどうかは別にして「やられたらやり返す」方針に舵(かじ)を切るらしい。かつての人気テレビドラマがそうであったように日本人の心情には、それがぴったりくるのだろうか▼自民党が安全保障戦略の改定に向けた提言をまとめた。焦点だった相手国の領内でミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」は「反撃能力」と名称を変えて保有。基地だけでなく「指揮統制機能等」も攻撃対象にするように求めた▼「やられっぱなしでは」という気持ちは当然ある。ただ、飛んでくるミサイルを撃ち落とすのと相手の領内に反撃するのでは、その先の展開が違ってくる。反撃すれば当然、その報復もある。すると、また反撃といった具合。結局、どちらかが倒れるまで殴り合うことになる▼そうなれば、もう本格的な戦争である。想像力をそこまで働かせた上での提言なのだろうか。さらに、国民の多くにウクライナの人々と同様、国民総動員令を出してでも戦う心構えができているのかどうか▼やり返すタイミングも問題だ。被害を極力なくそうとすれば西部劇の早撃ち競争のようになったり、「やられる前にやっちまえ」となったりしかねない。そうなると、どちらが先に手を出そうとしたのかは、もう水掛け論。今のロシア国内がそうであるように、戦争になってしまえば、どこの国でも「愛国主義が事実に優先する」。これが歴史の教訓だそうだ。(己)