年内をもって音楽活動の一線を退くシンガー・ソングライターの吉田拓郎さん(76)。先日の「最後のテレビ出演」でKinKi Kids(キンキキッズ)の2人と披露したのが、1973年発表の『落陽』だった▼<しぼったばかりの夕陽(ゆうひ)の赤が 水平線からもれている 苫小牧発、仙台行きフェリー あのじいさんときたら わざわざ見送ってくれたよ…>▼団塊の世代にはおなじみの名曲。冒頭の印象的な歌詞を聴き「あの曲か」と思う若者もいるだろう。ただ、歌詞の情景が想像できない人も多いのではないか▼作詞は米子市出身の岡本おさみさん(1942~2015年)。〝放浪の作詞家〟として知られ、北海道を旅する途中で出会った老人の人生と、港に見送りに来てくれた別れ際の様子を描いているという。1970年代の旅で書き留めた「ことば」を紡ぎながら名曲の誕生秘話を綴(つづ)った、77年発刊のエッセー『旅に唄あり』で知った▼今年は岡本さんの生誕80周年。手前みそで恐縮だが、山陰中央新報社は、岡本さん自身による作品解説や、歌詞を提供したアーティストについて語った講演内容などを加え、「復刻新版」として『旅に唄あり』を発刊した。拓郎さんの『旅の宿』『祭りのあと』、森進一さんが歌った『襟裳岬』…。それぞれの誕生秘話を知ると、歌詞の舞台を訪ねてみたくなる。旅に唄あり。そして唄もまた、旅心を誘う。(健)