不妊治療の当事者を対象に開かれた「里親さんとのお話会」=3日、出雲市内
不妊治療の当事者を対象に開かれた「里親さんとのお話会」=3日、出雲市内

 「子どもと一緒に買い物をしたり料理を作ったり。その姿を見て、嫁さんはこんなことがしたかったんだなと分かった」。先日、出雲市内であった不妊治療の当事者を対象にした「里親さんとのお話会」。登壇した女性が、夫がまとめた手記を読み上げると、参加者の多くが涙をぬぐった▼女性は5年間の不妊治療の末、40代で里親登録をした。体外受精や顕微授精といった治療の負担は、採卵や受精卵の移植、月経を迎えた失望感など女性に多い。見守るしかなかった夫はどこか置き去りになっていたのかもしれない。妻が望んだ生活へのようやくの理解と、母として振る舞う姿を慈しむ心が会場に伝わった▼妊娠に至らなかった多くは、治療を終えた時点で夫婦だけの生活を選ぶ。里親や特別養子縁組で子を迎える一歩を踏み出すには、制度や実情を知っているかが大きい。治療当事者に里親や養子という選択を検討してほしいというのがお話会の狙い。医療従事者ら有志が4年前から開いている▼親元で暮らせない子は全国に約4万2千人。里親への委託率は2割強だ。「子がほしい大人以上にさみしい思いをしてる子がいる」。冒頭の女性は昨年、里子を養子縁組した。庭先に揺れる子どもの洗濯物に、人生の彩りを感じている▼10月は「里親月間」。島根県内でも周知する講演会が開かれる。知ればできることがある。まずはそこから始めたい。(衣)