火災の影響から立ち直りつつある通称「エキニシ」飲食店街=広島市南区
火災の影響から立ち直りつつある通称「エキニシ」飲食店街=広島市南区

 昨年11月に30棟が燃える火災に遭ったJR広島駅西側の通称エキニシ飲食店街で先日、一軒の立ち飲みバーに知人と入った。店内は数人でいっぱい。カウンターに飲みかけのグラス、壁は過去の映画やライブのポスターなどでぎっしり埋まっていた▼30代のマスターは6日間のピンチヒッター。訪れた日がその最終日だった。聞くと安来市出身で、ミュージシャンや映画制作など幅広く活動中という▼そういえばと思い背後の映画のポスターを見ると、助監督に「サトシコンドウサトシ」と、マスターの名前があった。タイトルは『犬ころたちの唄』(前田多美監督)。それぞれ音楽を愛しながらもばらばらの人生を歩み、悩みもある3兄弟が、父親の三十三回忌の供養で奏でる詩とは-。広島市西区の横川を舞台にした作品の封切りは1年以上も前だが、まだ上映している映画館を探して鑑賞した。ロビーの感想ボードに目をやると、「何となく気になって…」という理由で見た人が自分以外にも少なからずいた▼3兄弟は特に仲良しというわけではない。それでも節目に父をしのび、家族で語り、共に歌う場を大切にしている。三十三回忌は仏教の一般的な慣習では弔い上げ。「もうなかなか集まれんじゃろ」とつぶやく長兄の姿は、どこにでもありそうで親しみを感じた▼偶然の出会いで教えてもらった家族の大切さを、帰省時期の年末年始に顧みる。(万)