イージス艦から発射される迎撃ミサイル(海上自衛隊提供)
イージス艦から発射される迎撃ミサイル(海上自衛隊提供)

 程度の差はあれ、戦前の空気もこんな感じだったのだろうか。昨年来、メディアでは、ロシアによるウクライナ侵攻か北朝鮮の弾道ミサイル発射、台湾有事の対応などのニュースが連日のように伝えられる。国内でも反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有など防衛力の大幅増強を決め、欧米との結束強化に動く▼まるで「戦争への備え」を急いでいるかのようだ。昔の「産めよ増やせよ」ではないが、少子化対策にも本腰を入れる構えだ。おまけにコロナ禍という抑圧が続く中、ナショナリズムが高まる五輪に続き、昨年はサッカーのワールドカップ(W杯)もあった▼この間に「敵」の姿、つまりロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記の「悪者ぶり」は十分に刷り込まれた。中国の習近平国家主席も、それに続く。こうなると「もう少し冷静に」というブレーキは利きづらくなる▼しかしトランプ政権時代の米大統領補佐官で対中強硬派のピーター・ナバロ氏でさえ著書でこう指摘している。「防衛力増強の試みが他国から誤解されると、軍拡競争を引き起こし、戦争勃発の可能性は急速に増大する。同時にその費用を賄わなければならない国民の生活は苦しくなる」と▼この先の日本にも言えることだろう。「いかに戦うか」という論議ばかりが目につくが、「いかに戦争を避けるか」を真剣に考えないと「新しい戦前」に近づく。(己)