松江市が大雪に見舞われたこの1週間、渋滞で一向に進まぬ朝の通勤車両のハンドルを握りながら久々に見る一面の銀世界は、雪が引き起こすもろもろの面倒があることは分かっていても、美しかった。一方で、あまり見たくない光景も目にした▼救急車のサイレンが近づく交差点で、多くの車が緊急車両の通過に配慮して動きを止める中、次の青信号までは待てないとばかりに道路を横切る車があった。白くなった路面を慎重に進む車をせき立てるように、後ろにぴったりとつく車があった▼平時と違い、皆の行動が制限される状況では、自己中心的な行動が目立ってしまう。人間の意思が体の何倍もの大きさの物体によって表されることになる車は、たちまちエゴ表出装置と化す▼日頃の自分自身を振り返れば、目撃したようなひどい運転はなくとも、反省すべき運転はある。環境に配慮したエコドライブは望ましいが、他者に配慮しないエゴドライブはいけない。事故と自己嫌悪を避けるには時間に余裕を持つことだ。自らを省みる通勤車内でもあった▼心を覆いそうな冷たいものを解かしたのは、同じ人間の姿だった。自分の家や店の前だけでなく、周辺の雪もかく人たちがいた。図書館駐車場で車のタイヤが空回りして動けなくなった家人は、通りがかりの2人に車を押してもらい脱出できた。現実の雪もほぼ解けた。温かい心で春を迎えたい。(輔)