量子コンピューターの回路=2021年、東京大
量子コンピューターの回路=2021年、東京大

 最近の米国映画には量子力学の考え方を生かした娯楽作品が多く、その分野に興味がある者にとって、実に面白い。本日公開の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』もその一つで、前評判が高い。主人公がマルチバース(多元宇宙)で活躍する物語だ▼極小の世界を扱う量子力学には「多世界解釈」という考え方があり、それによると宇宙はここ以外にも無数に存在するらしい。個人レベルでは、例えば道路を右に曲がった場合に、左に曲がった場合の世界も枝分かれしていくパラレルワールド(並行世界)がある。選択の数だけ世界が生まれる▼「あり得ない」というのが一般的な感覚だろう。ただ、多世界解釈の元になったのは、極小の世界ではいくつもの状態が「重ね合わせ」になるという現実の現象。その重ね合わせ現象は、計算能力が桁違いに高い量子コンピューターとして実用化が図られている。深遠な世界だ▼今さらあり得ないと思いつつ、1年前に始まったウクライナ侵攻や3年前からのコロナ禍、12年前の福島第1原発事故が起きなかった世界を想像してみる。過去のどこかの選択で防ぐか、被害を減らせなかったかとの思いが募る▼来月9日に島根、鳥取両県の知事選と県議選の投開票を迎える。映画の主人公のように複数世界を行き来できない私たちはこの現実をより良くしていくしかない。しっかり選択したい。(輔)