今月14日、老衰のため97歳で亡くなった霊長類学者の河合雅雄さんは、臨床心理学者で元文化庁長官の河合隼雄さん(故人)の実兄に当たる。共にユニークな研究で知られるが、1文字違うだけの似たような名前が、著書などを探す際に「河合違い」を招いて、混乱した覚えがある▼雅雄さんの研究業績で有名なのが、宮崎県の幸島(こうじま)で発見したニホンザルの芋洗い行動。最初は小川の真水で洗っていた芋を海に持ち込み、それが他の群れにも広がって、集団間で食文化が伝播(でんぱ)することを観察した▼なぜ真水から海水に移ったのか。「塩の味を占めた」という説もあり、おいしさの発見という「成功体験」を群れで共有しながら、他の群れにも伝わっていく社会性は、猿まねを超える▼人間を無意識の深層心理から見ようとした隼雄さんに対し、雅雄さんは「文化」をキーワードに、同じ霊長類として人間と動物の共通点を見いだそうとした。しかし決定的な違いがある▼それは人間に特有な自己破壊衝動であり、戦争や自殺を繰り返す「負の歴史」を引きずる現実。核兵器の軍拡競争や環境破壊は、その歴史の呪縛から逃れられていない証拠を突き付ける。「動物は、自分で自分をやっつけるようなことはしない。それに比べて人間は…」。そんな疑問がサル学の権威を育てた。山に囲まれた兵庫県丹波篠山市出身。自称「丹波の山ザル」を人里が惜しむ。(前)













