『立ち止まってゆっくり感じる50の自然のものがたり』ほか
『立ち止まってゆっくり感じる50の自然のものがたり』ほか

 信号の青は進め、赤は止まれですよね? でも、『おうだんほどうのムッシュトマーレ』(香坂(こうさか)直(なお)・作、フィリケえつこ絵、小学館)が現(あらわ)れたら、信号が青でも止まらくてはいけません。友達に嫌(いや)なことを言ってその場から逃(に)げたり、部活をさぼって遊びに行こうとしていたり…。

 「これでよいのだろか」と、もやもやしながら信号を渡(わた)ろうとしているときに、ムッシュトマーレは現れます。そして、ムッシュトマーレは「あなたの心の信号は青ですか? 本当に渡ってもいいですか?」と問いかけてきます。

 言ってしまったこと、やってしまったことは変えることはできません。でも後からできることはたくさんある。そんなことをムッシュトマーレは教えてくれます。

 ムッシュトマーレが「止まれ!」と言っても止まらないものがあるんです。それは『まほうのなべ』(ポール・ガルドン再話(さいわ)・絵、晴海(はるみ)耕平(こうへい)・訳(やく)、童話館(どうわかん)出版(しゅっぱん))です。

 このなべ、呪文(じゅもん)を唱えると、好きな時に、好きなだけオートミールを煮(に)てくれて、好きなだけ食べることができます。食べることに困(こま)っていたお母さんと女の子。このなべが家にやってきてからは、いつでもおなかいっぱいです。

 ある日、お母さんが、いつものようにオートミールをおなかいっぱい食べて、食べるのをやめようと思ったとき、呪文を唱えても、なべは煮るのをやめてくれません。お母さんは、止めるための呪文を忘(わす)れてしまったのです。女の子は家にいません。オートミールはどんどん鍋(なべ)からあふれ、早く止めないと、大変なことに。最後どうなってしまうのでしょう。

 こんな鍋があったら便利ですよね。でも呪文を忘れないようにしないと。

 「止まれ!」と言われなくても、時には立ち止まってみるのもいいものですよ。『立ち止まってゆっくり感じる50の自然のものがたり』(レイチェル・ウィリアムズ文、荻野(おぎの)哲矢(てつや)・訳、化学同人(かがくどうじん))には、立ち止まってしか見ることができない50の自然の物語が描(えが)かれています。テントウムシが空に飛び立つとき、葉っぱの上の朝露(あさつゆ)、夜空に光る流れ星などなど。日本では見ることのできないものもありますが、この本を見ているだけで、自然を感じゆったりとした気持ちになります。

 4月に入って、慣(な)れない環境(かんきょう)の中、一生懸命(いっしょうけんめい)前へ前へと進もうとしている人も多いのではないでしょうか。時には、立ち止まって、周りを見渡してみると、何かごほうびが待っているかもしれません。

 (尾崎智子(おざきさとこ)・島根県立大学松江(まつえ)キャンパスおはなしレストランライブラリー司書)