たくさん並(なら)んだ学校図書館の本から、どれを選べばいいか、迷(まよ)うことがありますね。本の中で本に出合うこともあるのですよ。
『図書室のはこぶね』(名取(なとり)佐和子(さわこ)・作、実業之日本社(じつぎょうのにほんしゃ))は、高3の花音(かのん)が、友だちの代理で1週間だけ図書委員をする話です。生徒が体育祭の準備(じゅんび)に盛(も)り上がるなか、彼女(かのじょ)は足をけがしていて参加することができず、憂鬱(ゆううつ)な気持ちを抱(かか)えています。体育祭より図書委員を優先(ゆうせん)するような図書室好きの朔太郎(さくたろう)から仕事を習います。
花音は、図書室には今まで一度も来たことがないような生徒なのですが、委員の仕事中、変な場所にあった文庫本を見つけたことをきっかけに、図書室にハマっていきます。
『飛ぶ教室』というこの文庫本、データ上は1冊(さつ)所蔵(しょぞう)となっているのに、2冊あり、さらに本の間から「方舟(はこぶね)はいらない。大きな腕白(わんぱく)ども、土ダンをぶっつぶせ!」という謎(なぞ)のメッセージを書いた紙が見つかるのです。
一体、この本は誰(だれ)が借りていたものなのでしょう? 『飛ぶ教室』を読んだ花音は、この本の主人公たちのように仲が良かった10年前の図書委員5人組の存在(そんざい)を知ります。ベテラン学校司書も巻(ま)き込(こ)んで謎を解(と)く花音にとって、この1週間は忘(わす)れられないものになっていきます。
本好きでない花音も一晩(ひとばん)で読んだという『飛ぶ教室』(エーリヒ・ケストナー作、池田(いけだ)香代子(かよこ)・訳(やく)、岩波(いわなみ)書店)、どんな本か、気になりますよね。1899年に書かれた、ドイツの寄宿(きしゅく)学校5年生、日本でいえば中3の「大きな腕白ども」5人組の痛快(つうかい)で心温まる日々を描(えが)いた作品です。
力が強いマティアス、臆病(おくびょう)なウーリ、秀才(しゅうさい)で絵がうまいマルティン、文才があるジョニー、冷静なゼバスティアーン。他校生とのいざこざを解決(かいけつ)したり、劇(げき)に夢中(むちゅう)になったり、正(せい)義(ぎ)感(かん)の強い彼(かれ)らの活躍(かつやく)に胸(むね)がスカッとします。
5人が信頼(しんらい)を寄(よ)せる「いい大人」が「禁煙(きんえん)さん」と「正義(せいぎ)さん」。自分にも同じような少年時代があったことを忘れていない大人たちです。みんなそれぞれ抱(かか)える悩(なや)みやつらい家庭環境(かんきょう)もあるけれど、「へこたれるな! きっと乗り越(こ)えていける!」と伝えてくれる一冊です。
百年近く前の海外児童文学には優(すぐ)れた作品が多いのですが、今の自分に楽しめるかなと思う人は『ぼくは本を読んでいる』(ひこ・田中(たなか)・作、講談社(こうだんしゃ))のルカの読み方をまねるといいかも。
親の本棚(ほんだな)で古い本を見つけた小5のルカ。知らない言葉は辞(じ)書(しょ)を引き、想像(そうぞう)して読み進めます。『小公女(しょうこうじょ)』のセーラ、『あしながおじさん』のジュディに現代(げんだい)っ子のルカが何を思うのか、一緒(いっしょ)に読書している感覚を味わえます。
本から本へ広がる読書、楽しいですよ。
(小田川(おだがわ)美由紀(みゆき)・雲南(うんなん)市立大東(だいとう)中学校司書)