作家の命日をペンネームや代表作にちなんでしのぶ「文学忌」は、梶井基次郎の「檸檬(れもん)忌」、太宰治の「桜桃忌」、正岡子規の「糸瓜(へちま)忌」などが有名だ。きょう7月28日は、1965年に死去した江戸川乱歩の「石榴(ざくろ)忌」。34年に発表された小説『石榴』に由来する▼乱歩が幼少期に影響を受けたのがジャーナリストの黒岩涙香(るいこう)(1862~1920年)だ。30歳で新聞「萬(よろず)朝報」を創刊。『レ・ミゼラブル』を『噫(ああ)無情』、『モンテ・クリスト伯』を『巌窟王』に改作したことでも知られる。『幽霊塔』もその一つ。乱歩は幼い頃に読んで心酔し、37年に同じタイトルで書き直した▼涙香といえば、有名人の愛人関係を網羅した連載「弊風一斑 蓄妾(ちくしょう)の実例」を思い出す。時の権力者から米屋の主人まで、当人はもちろん相手の住所、名前、年齢、生い立ちや暮らしぶりまで記した。「萬朝報」の綿密な取材と腐敗した政財界への手厳しい批判が世に受けて、涙香はその本名から「まむしの周六」の異名を取った▼「弊風~」は、当時の女性の立場が「甚だしく憐(あわ)れむべき境遇である」ことへの提言だったようだが、さらされた女性にとっては生き方を否定されたようで、それはいらぬお世話というものではないか▼良かれと思ったのだろうが、昨今の「女性活躍推進」「次元の異なる少子化対策」の言葉も、時には煩わしいと感じることもある。(衣)