ケヤキ並木が伐採された松江市上乃木3丁目の「けやき通り」=9月15日
ケヤキ並木が伐採された松江市上乃木3丁目の「けやき通り」=9月15日

 広島市内を走る路面電車の車窓から街並みを眺めると、電停・銀山町(かなやまちょう)-稲荷町辺りは欧風な感じがする。適度な幅の川が流れ、建物もレトロ。整然として緑が多い▼そんな癒やしの空間に欠かせないのが街路樹だが、最近各地で受難が相次ぐ。中古車販売大手ビッグモーターの店舗周辺で街路樹が切られ、不自然に枯れもした。そうでなくても時に邪魔者扱いされる。暴風による倒木に加え落ち葉の苦情も。それらを避けるため過剰に刈り込んだ木も見かける。樹勢が落ち、風に弱くなる。自然の状態に近いと強くなるのに、ちぐはぐである▼枝が伸び葉が茂る樹冠は木陰をつくる。温暖化対策やヒートアイランド現象を緩和できるとし、欧米で「樹冠被覆率」を上げる取り組みが進む。対して日本の街路樹は概して寂しい▼100年前の関東大震災で樹木が大火を遮り、人々が価値を認識。戦後復興や公害対策、工業都市の殺風景解消のため植樹した。心の豊かさも育んだ。だが緑化を達成して日がたつと、管理が雑になり生育を軽視した剪定(せんてい)に走る。そんな悪循環にある▼松江市内では松江大橋付近の柳並木、乃木地区のケヤキ並木が菌類感染による倒木リスクで伐採され、本数を大きく減らした。夜間照明、ビルの影に貧しい土壌…。実は都市に不向きな木を人が守ってきた。温暖化で緑との関係は新局面に入ったが、まず身近で失われゆく情緒を思う。(板)