<雪解(ゆきどけ)や春立つ一日あたたかし>。立春を詠んだ正岡子規の句だ。春の訪れがよほどうれしかったのか、「雪解」「春立つ」「あたたかし」と季語が三つも入る「季重なり」になっている。平仮名の「あたたかし」にしたのも、気候の「暖」と気持ちの「温」を兼ねたのだろう▼きょうはもう、その「立春」。二十四節気の最初で「八十八夜」や「二百十日」の起点になる。暦の上では待ちかねた春の到来だ。まだ余寒と呼ばれる寒い日は続くものの、春を意識すれば、気持ちは前向きになる▼厳しい冬を越えてやって来る春には、四季の中でも昔から特別の感慨があったようだ。ウグイスには「春告鳥(はるつげどり)」の異称があるし、春になると産卵のため沿岸に近づいてくるニシンやメバルは「春告魚(はるつげうお)」として知られる。漢字では、魚へんに春と書くサワラ(鰆)も瀬戸内などでは「春告魚」らしい▼さらに「百花の魁(さきがけ)」といわれ、全ての花に先駆けて咲く梅の別称は「春(はる)告(つげ)草(ぐさ)」。梅の花によって春の訪れを知ることを「梅ごよみ」といい、「梅に鶯(うぐいす)」のことわざは、ふさわしい組み合わせや仲の良い間柄の例えに使われる▼そんな春だというのに、興ざめなのは政治の世界だ。懲りずにまた「政治とカネ」の問題が繰り返された。田中角栄元首相は「数は力、力は金だ」と言ったそうだが、いいかげんに改めないと「梅に鶯、政治にカネ」と揶揄(やゆ)されても仕方ない。(己)