月の表面には少し暗い模様(もよう)があって、よくウサギのもちつきに見えるといわれます。それは、黒っぽい岩石でできた平地で、海と呼(よ)ばれています。「静かの海」、「晴れの海」などと場所ごとに地名が付いていますが、今、ぜひ注目してもらいたいのは「神酒(みき)の海」です。
ウサギの模様でいえば、耳の片方(かたほう)にあたります。神酒とは、ここではギリシャ神話に出てくるネクタルという神々の飲み物を指します。もっとも、月の表面には水分がほとんどなく、海といってもネクタルどころか一滴(いってき)の液体(えきたい)もありません。
注目したい理由は、近ごろここに、日本の月探査機(たんさき)SLIM(スリム)が降(お)り立ったからです。詳(くわ)しくいえば、神酒の海の近くにテオフィルスというクレーターがあります。直径がちょうど100キロの円(まる)くくぼんだ地形です。
テオフィルスの外側に、シオリという直径300メートルほどの小さなクレーターがあり、1月20日、SLIMはこのクレーターのそばにぴたりと着陸しました。その後は月の画像(がぞう)のほか、さまざまなデータを地球に送ってきました。
望遠鏡を使っても、大きさが3メートル足らずのSLIMはおろか、シオリクレーターでさえ分からないのですが、確(たし)かにそこに日本で初めて月に着陸した探査機があるので、空に月があれば見つめてみてください。
(島根県立三瓶(さんべ)自然館サヒメル天文事業室長・竹内幹蔵(たけうちみきまさ))
=隔週掲載(かくしゅうけいさい)=