<ギフテッド>という言葉を耳にする。「天賦の才のある」「生まれつきの才能がある」を意味する英語だ。米大リーグの大谷翔平選手や将棋の藤井聡太八冠らのすごさを語る際によく使われるが、それで片付けられると元も子もない。
先日、安来市であった世界的ジャズサックス奏者・渡辺貞夫さんのライブに行った。御年91歳。沈黙の空間で音を一つ出した途端、独特の世界に引き込まれた。でも、あの研ぎ澄まされた音にギフテッドは関係ない。剣豪がいつも剣を振るように楽器に息を吹き込み、磨き上げた人ならではの音色だ。それが基礎となり「世界のナベサダ」になり得た。
世界に打って出た、もう一人の音楽家が逝った。指揮者の小澤征爾さん。88歳だった。「そういうのは、自分じゃちょっとわかんないなあ…」。作家の村上春樹さんとの対談集で、本人の才能に関わる部分になるとそう語った。
反対に人との出会いに強く感謝する。中でも、桐朋学園時代の恩師・斎藤秀雄さんへの尊敬は絶対だ。厳しく仕込まれた指揮法はぶれず、外国の交響楽団相手に言葉が不自由でも意思を伝え、楽団の演奏水準を引き上げるのに役立ったという。
誰もが一流になれるわけもなく、才能も関係あるだろう。だが道半ばで安易に諦めてしまってはいないか。世界の一線で長く活躍した音楽家の足跡を思う時、ギフテッドという横文字はいかにも安っぽい。(板)