「名探偵シャーロック・ホームズ」シリーズの愛読者は「シャーロキアン」と呼ばれる。物語の高い現実性と緻密な描写により、架空の話なのを忘れがちな人たちである▼ホームズのように「一を知れば十を察する」推理力と洞察力があれば楽だ。特異能力の根源を作品で探ると、下積み時代にあった。ロンドンの大英博物館をぶらつき、役に立つともしれぬ大量の本を読んだ。難事件解決の思考過程の中に時折、博物館で得た知識を読み取る▼本は大切なのに、図書館と並ぶ宝庫である書店がなくなっている。全国の書店数はここ10年で3割減り、書店のない自治体は約4分の1に上る。大田市内で唯一の書店が3月末に閉店するのを受け、本紙「さんコメ!」で読者に投稿を募ると、残念がる声が多数集まった。知識の集積と癒やしの場として誰もが存続を望んでいるのに▼書店を含む出版業界には「限界費用」という経済用語がのしかかる。モノを追加的に生み出すコストのこと。初版は経費を要しても2版目以降は紙、印刷、インク代程度で済む。電子書籍に至っては限りなくゼロに近い。買い手が安く購入できるのはいいが、業界の逆風となる。本好きにとっては痛しかゆしか▼ホームズに解決策を尋ねても「時代の流れ」と片付けそうだし、鬼才ゆえ、紙の魅力と電子の弱点を突きそうだ。文化拠点を失う意味を名探偵には及ばぬ頭で考えてみる。(板)