先月訪れた大阪市の超高層ビル「あべのハルカス」(300メートル)からは、約20キロ離れた「太陽の塔」も小さく見えた。1970年の大阪万博で「ベラボーな神像をぶっ立てた」と記した故岡本太郎さんの構築物▼「〝こういうもの〟を表現したい、という最初の衝動がある。描きたいという衝動じゃない。〝こういうもの〟を、である」「何べんも何べんも自分に問うてみる。〝そういうもの〟を確かめる」▼昨年、東京の岡本太郎記念館で開かれた企画展「衝動の爪あと」は、同じような絵が何枚も並んでいた。岡本さんの創造の過程であり、頭の中にある完成形に手が追い付くまで繰り返し描き、再現の精度を高めたという。太陽の塔も、そうした衝動の爪痕なのだろう▼芸術運動研究者の塚原史さんは著書『人間はなぜ非人間的になれるのか』で、太陽の塔は「首を切断された太陽の像」であり、太陽は集う大群衆に捧(ささ)げる祭りの象徴として供犠(くぎ)に付された、と考察する。根源的な太陽を題材に、高度経済成長で見かけ上は豊かな消費社会の迷路に入り込んだ現代文明への挑戦状ではないか、と▼岡本さんは秘書でパートナーの敏子さんに「一番の反博(万博反対)は太陽の塔だよ」と話したとか。真偽はさておき、ハルカスから望んだ人工島・夢洲(ゆめしま)では工事が進んでいた。開催の賛否が割れる大阪・関西万博の会場。1年後の4月13日に開幕の予定だ。(衣)