世界各地に残る神話や伝説は虚飾や美化にあふれている。権力者がいにしえの帝王の子孫だとか、神と人間の間に産まれた英雄などと名乗る例も多い。ロマンやそれらしき正当性、理屈があれば「そうかも」と納得してしまいそうだ▼後に大帝国となるローマを創建し、都市名の由来とされる王ロムルスも存在が疑わしい。紀元前13世紀ごろ、ギリシャとの戦いに敗れ滅亡したとされる伝説の都市トロイアの落人が祖先で、オオカミの授乳で育ったという▼現実的とされるローマ人が丸ごと信じたと思えない。ただ、ドイツの考古学者シュリーマン(1822~90年)が実際に遺構と財宝を発掘し、トロイアの実在を証明したと聞けば喜びそうだ。ローマ人の時代から1400年も後のことだったが▼神話の舞台で暮らす出雲人が胸を張ったのは、出雲市斐川町神庭の荒神谷遺跡の発見。40年前、国内で出土した銅剣が全部で約300本だった頃に358本も現れた。12年後の1996年には、近隣の加茂岩倉遺跡で大量39個の銅鐸(どうたく)が現れた。古代出雲は古事記の上巻でたっぷりと描かれる割に痕跡に乏しく、存在が疑われていただけに痛快だった▼その後、研究の進展は思わしくない。どこかで銅剣と銅鐸を造った鋳型が見つかれば、ルーツや他地域との関係がうかがえ、次なる想像に羽ばたけるのに。史実をよそにした〝おとぎ話〟でも、新作が待ち遠しい。(板)