おなかが満たされている時にハンバーガーの広告を見ても、ぼんやりとした印象が残る程度で購買には至らない。広告を認知しても心理変容に影響を及ぼさない現象をマーケティング用語で「ノイズ作用」と呼ぶ。一見、意味がないように思えるが、ノイズ作用は何となく購買する際に影響を与え、長期的な売り上げに貢献するという。広告大手のリポートから引いた▼音楽も同様だ。ピアノで「ド」の鍵盤を押すと、純粋なドの音以外に他の音が共鳴や振動で混ざって、音がまろやかになる。邪魔とされるノイズがないと、実際には豊かに聴こえない▼大ヒット新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者で文芸評論家の三宅香帆さんは「読書はノイズである」と説く。インターネットは知りたい情報を最短ルートで得られるのに対し、読書はノイズ(関心のない情報)となる知識が提供される。あくせくした現代こそ、読書がもたらすノイズに触れる大切さを訴える▼文化庁の国語世論調査で1カ月に1冊も本を読まない人が6割を超えた。読まない理由は「スマホやSNSに時間を取られる」が最多だった。ユーザーの興味ある動画だけが次々と表示されるショート動画の仕組みも一因だろう▼SNSで偏った情報を取り入れる痩せぎすな毎日を見直したい。一冊の本は自分を小さな檻(おり)から外に連れ出して、凝り固まった価値観を整えてくれる。(玉)