ノーベル物理学賞のメダルを手に笑顔を見せる真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員=2021年12月6日、米ワシントンの科学アカデミー(共同)
ノーベル物理学賞のメダルを手に笑顔を見せる真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員=2021年12月6日、米ワシントンの科学アカデミー(共同)

 キャッシュレス社会の進展に新札発行もあり、最近めっきりお目にかかることが減った夏目漱石。代表作の一つ『三四郎』に<灯火親しむべし>という一文がある

 「秋の夜は過ごしやすいので、灯(あか)りをつけて読書をするのに一番適した季節」という意味の漢語を引用しており、この言葉で「読書の秋」が世間に広まったとされる

 読書に限らず「○○の秋」という修飾語は多い。食欲に文化、スポーツ…。近年は困ったことにわれわれ庶民の懐を痛める「値上げの秋」が常態化。福沢諭吉はもちろん、漱石の肖像画も次第に疎遠になってしまいそう。そして今年は「総選挙の秋」まで加わった

 ついでにもう一つ加えたい。「ノーベルの秋」。今週は“ノーベル賞ウイーク”。あす7日の生理学・医学賞を皮切りに、6部門の受賞者が連日発表される。注目はやはり10日の文学賞。作家の村上春樹氏は毎年有力候補に名前が挙がりつつ、残念な結果が続いており、もはや落選が秋の風物詩に。今年は受賞者を予想するブックメーカー(賭け屋)の2日時点のオッズ(賭け率)は2番人気というが、吉報は届くか

 日本人のノーベル賞受賞はこれまで28人。2021年に米プリンストン大の真鍋淑郎上席研究員が、気候変動の予測で物理学賞に選ばれたのが最後だ。3年ぶりに日本中が喜びに沸く「歓喜の秋」はやって来るのか。灯火に親しみながら思いを巡らす。(健)