40年前、小学校の修学旅行で広島平和記念資料館を訪れた。初めて見る被爆者の遺品や被爆の惨状を示す写真や資料。怖くなり、同級生の背中に隠れ、目をつむった。その記憶は今も鮮明に残っている。
6日と9日の広島、長崎の原爆の日に続き、15日に80回目の終戦の日を迎えた。昭和の時代は身近に戦争を感じた。家族で食卓を囲むと、祖父は出兵時の出来事を語った。もう一人の祖父は戦争で腹部にけがを負った。戦後80年、体験者が減り、記憶の風化が危惧される。
時代は変わり、人類は交流サイト(SNS)という新たな「凶器」を手にした。国境もなく、真偽不明の情報が拡散し、人々の意見や行動を左右する。戦争の武器になり、政治を動かし、個人が個人を攻撃する。
12年前の夏。松江市教育委員会が小中学校で漫画『はだしのゲン』を閲覧制限した問題を報じると、情報と反応がSNSで広がった。後輩記者の肩は震えていた。誹謗(ひぼう)中傷を受け、言いようのない恐怖を感じた。
「同じ過ちを繰り返さないために多くの人が事実を知る必要があります」「一人一人が相手の考えに寄り添い、思いやりの心で話し合うことができれば、傷つき、悲しい思いをする人がいなくなるはずです」。今年の広島平和記念式典で小学生が読んだ「平和への誓い」。争いが絶えず、混沌(こんとん)の度が増す現代にどう向き合うか。重くて、真っすぐな訴えを胸に刻んだ。(添)