<維新政府の大久保(利通)を彷彿(ほうふつ)させるものがある><「腐敗」の印象を残しただけ><戦後資本主義復興の基礎を築いた><人事管理の職人として名を残しただけ><異色中の異色>。戦後に首相を務めた人物に対する作家・松本清張の寸評だ。吉田茂、岸信介、池田勇人、佐藤栄作、田中角栄元首相のうち誰を指しているのかは想像にお任せする▼清張は、1980年に出した『史観・宰相論』で、歴代首相について雑談風に辛口で論評。理想の宰相像を探ろうと試みた。対象が第70代の鈴木善幸元首相までなのが残念だ▼清張が高く評価したのは、内閣制度ができるまで参議として事実上の宰相を務めた大久保で<日本の宰相像はすべて大久保に発していると思う>と。うち内政と外交を伊藤博文、軍隊と警察を山県有朋が継承。その路線が先の敗戦まで続いたという▼戦後は基本的には吉田路線で、特に官僚政治の点で強いそうだ。ちなみに吉田の妻は大久保の次男・牧野伸顕(のぶあき)(元内大臣)の娘。血のつながりはないものの、吉田の性格は大久保的な富国強兵、官僚主義につながるものがあるらしい▼第100代首相に岸田文雄自民党元政調会長が就任した。清張が寸評を書いた以降の首相は、これで30代20人目になる。著書の最後に「部族的」で「官僚政治」と清張が結論付けた日本の政治は、その後の40年で果たして変化したのだろうか。(己)