初めて「御衣黄」の花を見たのは、小さなテレホンカードの写真だった。葉にも見える薄い緑色の花。中学校への通学路だった三刀屋城跡下の川沿いの道に植わる。周りの桜が葉に変わる時期に開花するため、どれが御衣黄か知らぬまま卒業したのを思い出す▼雲南市で有名な花見スポットは、日本さくら名所100選の斐伊川堤防桜並木(木次町)だが、三刀屋川沿いの桜も負けず劣らず花を咲かせる。中でも特徴的なのが、緑の桜として知られる御衣黄だ▼三刀屋の御衣黄の歴史は、60年ほど前にさかのぼる。度重なる水害と復旧工事で伐採した桜を復活させるため、合併前の旧三刀屋町が一念発起。昭和30年代に奈良県吉野町から桜の苗木を取り寄せた中に、御衣黄が3本混ざっていた。観光の目玉にしようと町民の力を借り、苗木を育てた。だが、植えた後も草刈りで切られ、土手の草焼きで焼かれる苦しい時代があった▼その後の「活躍」はめざましく、1982年のくにびき国体に合わせ作られた『梅が香音頭』にも<世にも珍し みどりの桜>と歌われるほど。春先には緑の桜餅が店頭に並ぶ▼吉野から来た木は今、三刀屋城跡下に2本残る。国道54号沿いの御衣黄は、その古木から育てられたもの。当初見向きもされなかったという緑の桜は、今では多くの花見客を引きつける。新緑の中に御衣黄が彩りを添えると、夏の到来はもうすぐだ。(目)