国会前を通過する安倍元首相のひつぎを乗せた車=12日午後
国会前を通過する安倍元首相のひつぎを乗せた車=12日午後

 凶弾に倒れた安倍晋三元首相のひつぎを乗せた車が国会周辺を巡る様子を現場で見た。車が通り過ぎる予定時刻が迫ると、たちまち沿道に人だかりができ、最後の別れを惜しんでいた。歴代最長政権を築いた安倍氏の存在の大きさを改めて目の当たりにした瞬間だった▼安倍氏の演説を初めて直接聞いたのが2018年の自民党総裁選。京都での地方遊説だった。当時は石破茂元党幹事長(衆院鳥取1区)との一騎打ち。ぶれない信念を持って外交・安全保障などで実績を積み上げ仲間も増やす安倍氏は、石破氏とは対極にいた。地元の期待を感じながら石破氏を取材する身として、壁の高さを感じた▼石破氏への取材を通じ、安倍1強政治の弊害とも向き合った。森友、加計学園問題で説明に丁寧さを欠き、強権的な政治手法も目立った。忖度(そんたく)せず物を言う石破氏のような存在が時に必要だった▼選挙の街頭演説中に銃撃されるという衝撃も相まって、安倍氏が神格化されるのではないかと気にかかる。岸田文雄首相は憲法改正などで「安倍氏の思いを受け継ぐ」と繰り返し、国葬も予定する▼参院選で大勝した岸田政権が引き継いではいけないのが、安倍1強政治の弊害。安倍氏が打ち出した地方創生や経済政策「アベノミクス」の恩恵は、特に地方では薄い。きょうで死去から2週間。安倍氏の功績に思いをはせつつ、政治の転換点になるか注視する。(吏)