大型船から水揚げされるサンマ=8月26日、北海道根室市
大型船から水揚げされるサンマ=8月26日、北海道根室市

 残暑が一段落して朝晩が涼しくなると、食いしん坊にはうれしい季節「味覚の秋」の番だ。野菜も果物も旬の食材が増えるが、お目当ては、やはり魚。個人的な好みで言えば、サバとアジに加え、近年不漁のサンマの動向が気になる▼ところで『語源散策』(岩淵悦太郎著)によると、この魚という漢字の訓読み「さかな」が公式に認められたのは、意外に新しく49年前のこと。当時の当用漢字表では、それまでは「うお」と読ませ、学校でもそう教えていたが、1973年の音訓表改定で追加されたそうだ▼魚の読み方には地域差があり、東京では「魚河岸」や「魚市場」を除けば「さかな」が生活語として普及。既に江戸時代の書物には「大坂でウオヤ、江戸でサカナヤ」との記述もあるという▼一方、関西では平安時代に「うお」と呼んでいた影響が根強いのか、泳いでいる魚を「うお」、食膳に載ったものは「さかな」と呼んで区別していたらしい。ちなみに古語辞典では「さかな」の漢字は、酒を飲むときに添える料理や余興などを指す「肴」のみ。魚の字の方は「うを」または「いを」と読ませている▼魚類を「さかな」と呼ぶのが普及したのは、東京語が標準語の中心になっていったことに加え、海に囲まれた日本では、魚料理が肴になることが多かったからなのだろう。さて、今夜の肴は「しめさば」にするか、アジの刺し身がいいか。(己)