女性として確固たる地位を築いた上代タノ
女性として確固たる地位を築いた上代タノ

 15年ほど前まで財布の中で時折顔を見せていた新渡戸稲造(1862~1933年)。『武士道』の著者で、教育者として東京帝国大などで教授を歴任したほか、女子教育にも尽力した▼5千円札の肖像としてなじみ深いが、島根県出身者とも浅からぬ縁がある。雲南市大東町出身の上代タノ(1886~1982年)。松江高等女学校から日本女子大学校(現日本女子大)に進み、新渡戸との知遇を得て米国の大学へ留学。帰国後は新渡戸の影響で婦人平和協会の設立に参加し、1956年には母校の6代目学長に就任した▼『上代タノ―女子高等教育・平和運動のパイオニア』によると、タノが東京帝国大への進学を希望しようにも、当時の帝国大は女性に門を閉ざしていた。その後、46年の衆院選で女性の参政権が初めて行使され、85年には男女雇用機会均等法が成立した▼総務省がまとめた2020年国勢調査に基づく労働力人口は、5年前と比べて男性が11万1千人減少したのに対し、女性は157万1千人増加。働く女性が増えている証左だが、それでも活躍を妨げる「ガラスの天井」の存在が指摘される▼地元でタノを顕彰する「大東町の女性の集い」では、快活だった幼少期と、経験を通して培った思いを朗読劇で伝える。ガラスどころか向こう側も見えない中、女性として確固たる地位を築いたタノの努力と功績はもっと注目されていい。(目)