セクハラを巡る事案について対応を説明する島根県警の中井淳一本部長(手前右)=2月28日、松江市殿町の島根県議会
セクハラを巡る事案について対応を説明する島根県警の中井淳一本部長(手前右)=2月28日、松江市殿町の島根県議会

 夜、目をつむると、いつも遠くでサイレンが鳴っている気がした。27年前に警察担当でスタートした記者生活。交通事故や事件の現場でよく悩んだ。事故当事者の家族から泣いて頼まれた時、事件が親子間で起こったと知った時、なぜ記事にするのか、この取材の意味は何か▼悲しい事故や事件がなくなってほしい。いい写真を撮って大きく扱われれば、抑止につながると信じて現場に向かった▼人のことを書くのだから、もし身内で何かあれば書かれるのは当然。そんな小さな覚悟は、警察取材を通じ社会の常識も教わりながら芽生えた▼島根県警の不祥事が続く。警察官の大麻所持に盗撮目的のカメラ設置、そして松江署長(警視正)による複数の女性職員へのセクハラ。気になるのが、現場記者が取材中に覚え、記事でも訴えた事後対応への違和感だ。実名や所属、事案の発生そのものが非公表とされ、処分内容も甘いと感じさせた。示しがつかないとはこのこと。内部基準に沿った「適正」な対応だとしても、感覚にズレがある▼記憶がよみがえる。24年前、本紙報道で発覚した県警の短銃押収偽装。全国的な摘発競争を背景に、スピード違反の行政処分を取り消す代わりに不法所持の拳銃を提供させた。「治安の維持のため」との強弁も聞かれた県警に対し、小欄は当時、こう指摘した。「組織のわなにはまっている」。信頼回復の道は険しい。(吉)