『リヤカーマン 歩いて世界4万キロ冒険記』ほか
『リヤカーマン 歩いて世界4万キロ冒険記』ほか

 この連休に旅行の予定がない人も、1冊(さつ)の本があれば、遠い海外から異(い)世界まで、どこへでも行けます。

 旅といえば車で、電車で、飛行機で計画しますが、歩いて、しかもたったひとりで南米やアフリカを縦断(じゅうだん)した人がいます。出雲(いずも)市出身の永瀬(ながせ)忠志(ただし)さんです。『リヤカーマン 歩いて世界4万キロ冒険記(ぼうけんき)』(永瀬忠志・著(ちょ)、学研(がっけん)プラス)永瀬さんは水や食糧(しょくりょう)、テントなど必要なすべてをリヤカーに積んで出発します。言葉が通じない国もあります。猛獣(もうじゅう)の住むジャングルや草原もあります。4000メートル級の山が連なる山脈(さんみゃく)や砂漠(さばく)も越(こ)えなければなりません。おなかを下したり熱が出たり。「なんで来たのか」とくよくよすることも…。永瀬さんが苦しい旅を続けるのはなぜでしょう。

 ひとり旅は、知恵(ちえ)と勇気が試(ため)される旅ですが、支(ささ)えてくれる仲間がいる物語が『ヤマネコ号の冒(ぼう)険(けん)(上下)』(アーサー・ランサム作、神宮(じんぐう)輝夫(てるお)・訳(やく)、岩波(いわなみ)書店)です。小さな帆船(はんせん)の乗組員はウォーカー家の4人兄妹(きょうだい)とブラケット姉妹(しまい)。新鮮(しんせん)な肉、バター、卵(たまご)、野菜、パンをたっぷり積んで、キャプテン・フリントや老水夫(ろうすいふ)ピーター・ダックとともに、イギリス海峡(かいきょう)を船出します。

 初めての夜は興奮(こうふん)して眠(ねむ)れません。ところがピーター・ダックにはある秘密(ひみつ)があり、黒い帆船マムシ号のブラック・ジェイクが後をつけてきます。地震(じしん)や嵐(あらし)など自然にも挑(いど)む、スリルに満ちた旅の仲間になってみませんか?

 最後に紹介(しょうかい)するのは異世界への旅です。私(わたし)たちの住む日本、倭(わ)と蝕(しょく)(=天災(てんさい))でつながる地図にはない虚(きょ)海(かい)の向こう、海に囲(かこ)まれた12の国の物語。

 12の国の王は血縁(けつえん)ではなく、聖(せい)なる獣(けもの)である麒麟(きりん)が天命により王座(おうざ)に据(す)えます。慣習(かんしゅう)は古代中国を思わせますが、神仙(しんせん)や妖魔(ようま)がいる不思議な世界。この「十二国記シリーズ」のはじめの物語が『月の影(かげ) 影の海(上下)』(小野(おの)不由美(ふゆみ)・作、新潮社(しんちょうしゃ))です。

 高1の陽子(ようこ)は、ケイキと名乗る男性(だんせい)に「お探(さが)し申し上げました。」と言われます。直後に巨大な翼(つばさ)の妖魔に襲(おそ)われ、ケイキの僕(しもべ)と、海面に映(うつ)る月の光をくぐって逃(に)げますが、気づくと見知らぬ世界に一人取り残されていました。

 親切そうな女にだまされ、倭(わ)から来た老人にも裏切(うらぎ)られ暗く荒(すさ)んでいく陽子。そんなとき半獣(はんじゅう)の楽(らく)俊(しゅん)と出会い、自分がここにいる答えを求めて、海客の王が治める豊(ゆた)かな泰(たい)国(こく)目指して旅します。シリーズのどの巻(かん)も読み応(ごた)えがある歴史(れきし)ファンタジーです。本で旅して光と風を感じましょう。

 (澤田(さわだ)千鶴子(ちづこ)・出雲市立大津(おおつ)小学校 学校司書)