東京・明治神宮外苑のイチョウ並木は美しい。東京五輪の余韻を残す国立競技場のわきにあり、青山通りからの眺めは西洋画のようだ。この場所での再開発計画をめぐり並木の一部を切るか切らないか、緑と都市の共生を巡る大論争が起きた。
まじめな景観論争なのだが、それを横目に全国の街路樹に異変が起きていた。昨年秋、都内のマンモス団地で歩道のイチョウが倒れ、運悪く通りかかった人が亡くなった。京都では観光ルートの桜が倒れけが人が。松江では人的被害こそなかったが、松江城入り口の松の古木が強風で倒壊した。
一見関係なさそうにも見えるが実は違う。街路樹は戦後の高度経済成長期に防災、景観、公害対策として人の手で植えられた。これが一斉に老木となったことに加え、長年車の排気ガスにさらされ、地球温暖化による気象変動のダメージを受け、危険度が増している。
国土交通省の調査では毎年5千本以上の街路樹が倒壊。運悪くその場に居合わせた、とならないことを願うばかりだが、管理する自治体は頭を抱える。日々の保守に人手は足りず、植え替えの費用も捻出できない。
都市の緑は昭和という「奇跡のような成長時代」の置き土産。遺産として残すには新しい時代に合った新しい発想がいる。今年は昭和の始めから数えて「百年」。そろそろ昭和の手法が通用しなくなりつつあると、物言わぬ樹木が語りかける。(裕)